花咲く頃にさよならを
おしゃれよりも音楽が好きです。
おすすめされればなんでも聞くけれど、いわゆる邦ロックばかりを聞いています。
人生で一番はじめに好きになったのはジャニーズのとあるグループでした。
それはもう好きでした。毎日毎日ウォークマンで再生していました。今では何かをしながら音楽を聞くことが多いけれど、あの頃はただ音楽だけを聞いていることが多かったです。
けれど、コンサートに行きたいというほどではありませんでした。
はじめてライブというものに行ったのは中学二年生か三年生の頃だったと思います。
女性シンガーソングライターを好きになったのです。
その人はずっと前からインターネット上で活動していたけれど、ニコニコ動画がきっかけでメジャーデビューをした人です。(たぶんわかる人にはわかると思います)
わたしはその人の声も、人柄も、彼女の作り出す世界観も全て好きでした。
はじめてその人のライブに行ったとき、その人はまだメジャーデビューをしていなくて、会場は代官山にある小さなライブハウスでした。
整理番号はたぶん4〜15番とかだったと思います。かなりよかったはずです。
はじめてのライブで、しかも一人で、まだ中学生で。おしゃれもよくわからなくて、でもその時自分が気に入っていた服を着て、なけなしのお小遣いで買ったその人へのプレゼントと手紙を持って、事前に何度も調べていたライブハウスへ向かいました。
開場三十分前くらいから並びました。緊張で心臓がばくばくしていたし、足も震えていました。
その日のライブは彼女の知り合いのアーティストも呼んだ、対バンみたいなものでした(他に言い方が思い浮かばない)
いよいよ開場して、初ライブでわけもわからなかったわたしはドリンクをすぐに交換しました。
開演までの三十分、プラスチックのカップに入ったオレンジジュースが邪魔で仕方なかったです。
開演し、彼女の知り合いのアーティストが次々と歌を披露し、それをぼーっとしながら聞いていたのを覚えています。
そして次が彼女の番になりました。
ステージのセットの変更を行っている間、期待と同じくらいに立ちっぱなしの足が痛くて痛くて泣きそうでした。
照明が落とされました。
ステージ袖にコードに引っかかって転びそうになっている女の人を見ました。
当時の彼女は顔出しをしていなかったのでわたしはその時彼女の顔を知らなかったのだけれど、なんとなくあの人がそうなのだろうと思いました。
予想は当たっていたみたいで、その人はステージまでやってきてマイクの前に立ちました。
そして歌声が聞こえてきた時、思わず泣いてしまいました。
「あのひとは本当に生きていて、今わたしの目の前で歌っているんだ」と思うと、なんだかここが夢なんじゃないかと思ってしまったのです。
彼女がステージの上に立っている間、足の痛みはすっかり忘れてしまいました。
ライブが終わり、受付にいたスタッフさんにプレゼントと手紙を渡し、あの人に渡してくれと伝えました。
あの日、彼女が何を歌ったかは覚えていません。
でも、あの日のことはきっと一生忘れられないと思います。
それから何度か彼女のライブに行きました。
ライブに行くたびに彼女が歌う場所は大きくなっていき、その間にメジャーデビューをし、どんどん遠くの人になっていきました。
そしてわたしは、高校受験を機に彼女のライブへ行くことをやめました。
いろいろ理由はあるけれど、決定的だったのは「ライブにペンライトがあったらうれしい」という彼女の発言でした。
ファンはもう次のライブにペンライトを持っていく気満々だった中、わたしは暗闇の中で聞く彼女の歌が好きだったから、なんかそれは違うな、と思ってやめたのです。
そして現在。
わたしは邦ロックというジャンルに溺れていました。
あの頃は立っているだけで痛いと泣きそうになっていましたが、今では夏フェスであちこち歩き回って、帰りの電車の中であまりの痛さと疲労で死んでいます。
ペンライトは好きじゃないとひっそり思っていましたが、今では手を上げ飛び跳ねています。
モッシュに巻き込まれれば怖いからやめろと言いながら笑っています。
きっと、こっちのほうが身に合っていたのだと思います。
一方彼女は更に遠い人になっていました。
アニメのオープニングやエンディングをほぼ毎期歌うようになっていました。
まあ当然でしょう。それほど素晴らしい歌声と才能を持った人なのです。
CDは買わなくなったけれど、ツイッターだけは今も見ています。
そんな中、去年の夏にとあるシンガーソングライターのライブで渋谷のライブハウスに行きました。
そこはかつて彼女が歌った場所でもありました。
それから今日まで、わたしはふとした時に彼女のことを思い出すようになりました。
そして時折、勝手にさみしくなるのです。
色んなバンドのライブに行くたびに、あの日、ちいさなライブハウスであった感動を思い出してしまうのです。